Tuesday, May 19, 2009

「猫と庄造と二人のおんな」と「A Cat, a Man, and Two Women」


「猫と庄造と二人のおんな」は谷崎潤一郎の作品の中でも、好きな作品のひとつです。
谷崎潤一郎の作品には、度々魅力的な女性が登場しますが、この作品では猫のリリーがその役です。
猫好きとしても有名な谷崎潤一郎が、その猫の愛らしさを見事に描いて、猫好きな方は勿論ですが、そうでない方も楽しめる作品だと思います

庄造は何よりも猫のリリーを愛している。
二人のおんなは庄造を取り合いながら、猫のリリーに強く嫉妬をしている。
リリーにしてみれば、そんな事はどうでも良くて、猫として気ままに日々暮らす。
タイトルの順番が、そのまま力関係を表していると思います。 

英語版では「A Cat, a Man, and Two Women」で出版されています。
この作品は主人にも読んで欲しかったので、英語版も購入しました。

英語版は、表紙のデザインが素敵です。
ただ,表紙の白い猫はリリーとは大分違うイメージですが。
リリーの容姿を表現した一部を抜粋しました。

英吉利人はこう云う毛並みの猫のことを鼈甲猫と云うそうであるが、茶色の全身に鮮明な黒の斑点が行き瓦っていて、つやつやと光っているところは、成る程研いた鼈甲の表面に似ている。(中略)肩の線が日本猫のように怒っていないので、撫で肩の美人を見るような、すっきりとした、イキな感じがするのである。(中略)リリーの顔は丈が短く詰まっていて、ちょうど蛤を倒まにした形の、カッキリとした輪郭の中に、すぐれて大きな美しい金眼(後略)

主人もとても面白かったと言っていたので、何人かの友人にも貸しました。
皆とても良かったと言っていますが、そのうちの何人かが、何故、二人のおんなは庄造の様な人を取り合うのか、その気持ちが分からないとの感想を言ってました。
確かに、庄造はかなりの駄目人間だし、日がな一日猫と遊んでいたいだけの甲斐性なしなので、正論だと思います。

でも、私はこのキャラクターは憎めないというか、猫に愛情を注いでいるだけで、まったく悪意のない所なんかは好きです。
庄造は柔らかい関西弁で話すのですが、その言い回しが何とも力の抜けた感じなのも心地良いです。
英訳版を読んでみましたが、その独特な言い回しが消えてしまっているので、庄造の持ち味が半減している様に感じました。
仕方無い事ですが、とても残念です。

谷崎潤一郎の多くの作品は関西弁で表現されていますが、言葉が本当に美しく、何度も繰り返し読みたくなります。